【ソウル=中村勇一郎】北朝鮮製の覚せい剤を密売した容疑で逮捕された韓国在住の元北朝鮮工作員、安明進(アン・ミョンジン)(本名アン・ソンボム)容疑者(38)が、韓国警察当局の調べに対し、自らも覚せい剤を使用していたと供述していることは、韓国の脱北者社会に衝撃を与えている。
横田めぐみさんの目撃証言で脚光を浴び、拉致問題への世論が高まるきっかけの一つを作った安容疑者だが、ここ数年は、詐欺被害や離婚などで苦しい生活が続いていたという。
警察当局によると、今年6月に逮捕された脱北者が、安容疑者から覚せい剤を購入したと供述。安容疑者の自宅などを捜索したところ、車の中から覚せい剤の吸引器などが見つかった。安容疑者は、少なくとも1年半以上前から覚せい剤を使用したと認めている。
安容疑者は1997年、北朝鮮で88年から91年にかけて、横田めぐみさんら日本人拉致被害者を目撃したと証言。その後、02年の日朝首脳会談で北朝鮮側がめぐみさんら日本人拉致を認めたことから、一躍注目を集めた。
安容疑者と親しい脱北者の男性は本紙の取材に対し、「以前は日本で本を出版するなど裕福だったが、最近は詐欺にも遭い、困っていた様子だった。それでも派手な生活は変わらず、大金欲しさに密売に手を染めたのではないか」と指摘する。
安容疑者は93年に韓国に亡命後、韓国ガス公社に勤務し、職員の韓国人女性と結婚したが、数年前に離婚。その後は、脱北者女性と同居するようになったという。脱北者の男性は「1年ほど前から、やせて顔色も悪く、心配していた」と振り返る。
関係者によると、安容疑者は「北朝鮮を調査する」として中朝国境付近に行くことが多く、入手した北朝鮮製の覚せい剤を次第に自らも使用するようになった可能性があるという。
安容疑者逮捕のニュースは、韓国の脱北者社会でも瞬く間に広まった。
韓国在住の脱北者の多くは韓国社会になじめず、犯罪に加わるケースが多く、社会問題になっている。安容疑者は日本で活動することが多かったため、韓国で友人は少なかったという。
安容疑者のような有名人の犯罪は特に目を引くこともあり、「脱北者全員がやっていると思われ、非常に迷惑だ」と憤る人も脱北者団体に見られる。
一方、安容疑者と交流があった「特定失踪(しっそう)者問題調査会」の荒木和博代表は「本当だとしたら非常に残念だ。日本人拉致問題のために一生懸命頑張ってくれたのに」と話している。(読売)
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悲しい逮捕である。安明進(アン・ミョンジン)さんは、国民大集会の会場、演壇での報告や証言で、幾度も顔を見ている。
北工作員として潜伏が逮捕、亡命。それから背負った孤独と不安は、来日しての異国の民衆を前にしての口演で、祖国の窮状と悲惨を真摯に率直に述べて、共感を覚えました。若い使える人だと。信頼する側に加えていいのだ、と。
やはり、その重圧と無援は並みのものではなかったのでしょう。
故国に残した人々のことをおもえば、韓国内での日々も、表面だけの流れに呑まれては、落差と音信不通に苦悩も深かったのでしょう。
この若い人を、救国の意気ある人材を、このまま失意の底へ放していいものでしょうか。
こちらの非力も痛感しつつ、見棄てるはずはないと感じても、彼の周辺が暗く困難になりつつある現状に、どうすればいいのか。