かいふう

近未来への展望や、如何に。

ある過失。

kaihuuinternet2006-03-06

先日、食事のため外に出て、車道脇コールタール舗装の歩道をいくと、眼下に小指の太さで数センチ、茶色の物体が見えた。枯れ葉にしては量感がある。老眼鏡取り出すのも億劫。で、革靴の先でちょいっと押し出し、感触を確かめてから、その何やら薄気味わるい物体の正体を。それが、殻がずれて、何やら液体が滲み出したのである。慌てて、それを摘み上げ、掌に載せ、眼鏡で観察した。カブト虫の幼虫の小型らしきものが、異変に驚いて体をくねらせ首を縮めたりしている。緊急事態発生で生死の境をもがいている。自分が何を仕出かしたか、感づく。緑の葉を拾い、それに載せて、今度は救急隊員になって家に急ぐ。どうしよう、被告人は自分だ。7対3で割れた、その越冬の宇宙カプセルは、突如「エイリアン」の攻撃破壊によって、宇宙飛行士は瀕死の重症を負い、『緊急事態発生!』のサイレンは鳴り続ける。キッチンでテーブルで思案した。今度はICUの外科医師だ。まず、こぼれ出た液体に近いものを、それで患者を包まねばならぬ。冷蔵庫から径2センチの携帯シロップを取り、水道水にて希釈したもの、その中に7側に収まってる殻着きサナギを頭から入れた。糖分が要るのは、人もサナギも同じだ、空気に触れるのはよくないに決まってる。他人に見つからないところに置き、食事にした。自分が「エイリアン」である、ことを知られたくなかった。
シロップ容器に漂うサナギの容態が変だ。生理的食塩水が正しいのか。水圧が透らないのか。「エイリアン」作製の違う溶液内で、実験材料にされたサナギ隊員は苦しんでいる。また罪状が加わってしまった。やがて、その宇宙飛行士は、使命を果たす前に、異液で傷口を広げ、灰色の肉汁を異液に出し身を約3分の1に縮め、反応しなくなった。罪悪感だけが残った。外の捨てられた鉢の中に、拾った緑の葉に寝かせた。とても土に埋める気力が湧かぬ。
被告兼弁護人の弁論は以下のごとくである。『歩道に風が運んだであろうサナギ冬眠カプセルを、たとえ被告人が踏まずとも、その後他通行人が過失にて同様の結果たる轢死に至らせる可能性は十分に在ると考えられる。また、風が吹いて、そのカプセルが車道に転がり出る可能性も然り。被告人は過失を認め、しかし無知をさらけ出す対応しかせなんだが、それを情状酌量になしにせよ、ここは執行猶予で願いたい』
被告兼裁判官の判決文は以下のごとくである。『被告は先年山間旅行時に、飛来した紋白蝶をば被れるヘルメットに激突させ、蝶体複雑骨折瀕死の重症を負わせ、それを最寄の草花に遺棄し、その生死の確認すらせなんだ。しかるに、その後年勤務先付近にて、同種蝶が倒れしを拾い上げ、近くの花垣に保護した。よって今回の件、その罰則規定及び判例に習い、種類を問わず対昆虫類に複数件の救助もしくは支援活動を言いわたす』