かいふう

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それ、デモエピ?「超悪玉ピロリ菌」、への対処。

kaihuuinternet2008-04-16

30年内に団塊世代ら500万人発症

100種類を超す「がん」の中で、胃がん横綱格のがんだ。わが国のがん種類別の死亡順位によると、男性では肺がんに次いで2位、女性では1位の座を占めている。

全世界で胃がんが原因で死亡する人は、少なくとも年に50万人いるといわれる。そのうち、日本での死者は約5万人に上る。

ここで驚くべきデータがある。

人口10万人あたりの各国の胃がん死亡率をみると、米国が約7人、欧州で10〜20人台なのに対し、日本ははるかに高水準の約61人と世界最悪レベルにあるのだ。韓国と中国も日本ほどではないが高水準で、なぜか東アジアで死亡率が突出している。人類と胃がんの戦いにおいて、東アジア、とりわけ日本は「主戦場」ともいえるほど、胃がんの猛威にさらされている。

2人に1人が感染

なぜ日本で胃がんが多いのか。その理由は、近年注目されているピロリ菌、なかでも病原性が強い「超悪玉」のピロリ菌にあるらしい。超悪玉ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムが、北海道大遺伝子病制御研究所の畠山昌則教授らのチームによる研究で、明らかになってきた。

写真にある芋虫のような物体が、「ヘリコバクター・ピロリ」(以下、ピロリ菌)だ。胃の中に生息する細菌で、世界で30億人、つまり2人に1人が感染しているといわれる。衛生状態の良い日本では、多くは幼児期に母親が食べ物を咀嚼(そしゃく)して与えることで感染すると考えられ、胃の中で数十年間生き続ける。

胃の中の胃酸は空腹時には10円玉を溶かすほどの強い酸性であるため、「生物が生きられるはずがない」というのが長年の常識だった。その常識を覆す形で1983年、オーストラリアの大学教授と医師の2人が胃の中からピロリ菌を発見。2人は2005年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。

ピロリ菌は、胃炎や胃・十二指腸潰瘍(かいよう)の原因であることがわかっている。ところが2000年ごろから、ピロリ菌は胃がんの発症とも関係が疑われるようになった。01年に発表された大規模な疫学調査では、ピロリ菌に感染していない人はほとんど胃がんにならないことが明らかになり、ピロリ菌と胃がん発症とは何らかの関係があることが決定的になった。

「ただ、ピロリ菌の感染者全員が病気になるわけではないのです。感染者の十数%が胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こし、数%が胃がんを起こす。人間一人ひとりが違うようにピロリ菌にも個体差があり、がんを起こしやすい菌、起こしにくい菌があるようなのです」

と、畠山教授は指摘する。

では、胃がんを起こしやすいピロリ菌とはどのようなものなのだろう。

毒素を細胞に「注入」

この謎を解明するため、畠山教授らのチームが着目したのが、ピロリ菌が持つ「cagA」(キャグエー)という遺伝子だった。cagA遺伝子が作り出すCagAタンパク質こそが、胃がん発症メカニズムの引き金になっていることがわかったのだ。


畠山教授らの研究により、胃に棲(す)みついたピロリ菌が、驚くべき方法でCagAタンパク質をヒトの細胞に組み入れることが明らかになった。ピロリ菌は30種類のタンパク質を組み合わせて細長い「注射針」を形成し、CagAタンパク質を胃の上皮細胞に注入する。写真でピロリ菌の体から伸びる細長い足のようなものがその注射針で、病原性のタンパク質を人体に注入している、まさにその瞬間である。

注入された病原性のCagAタンパク質は、胃の細胞内で、あたかもヒトのタンパク質のように振る舞い、「SHP−2」というタンパク質と結合する。SHP−2は細胞の増殖を促進する酵素を持つのだが、CagAタンパク質と結合することで細胞の増殖シグナルを発し、がんタンパク質を活性化させてしまう。

「つまり、CagAタンパク質が入り込んだ細胞では、異常な細胞増殖と異常な細胞運動が生じ、細胞のがん化、悪性化を促していると考えられるのです」(畠山教授)

前述したように、ピロリ菌には個体差がある。実は、すべてのピロリ菌が病原性のCagAタンパク質を作るcagA遺伝子を持っているわけではない。欧米人に感染するピロリ菌のうち、4割はcagA遺伝子のない、いわゆる「善玉ピロリ菌」で、6割がcagA遺伝子を持つ「悪玉ピロリ菌」だ。

この悪玉ピロリ菌こそが、胃がんを引き起こしやすいタイプにあたるのだが、日本人に感染するピロリ菌は、ほぼすべてが「悪玉」だったのだ。

さらに、日本人にとっては悪い話が重なる。

cagA遺伝子を持つ「悪玉ピロリ菌」の中にも個体差がある。大きく分けて欧米型と、日本や韓国、中国でみられる東アジア型の2種類がある。東アジア型のほうがSHP−2タンパク質との結合力が強く、より発がん性の高い「超悪玉」であることが明らかになったのだ。

「東アジアではがんを起こしやすいピロリ菌が蔓延し、その結果として胃がんが多くなっているのです」(畠山教授)

胃がん予防」の必要

ピロリ菌は抗生物質を使って除菌できる。ただ、そのコストや耐性菌による除菌失敗、逆流性食道炎などの副作用を理由に、除菌の効果を疑問視する声もある。しかし畠山教授は、

胃がんの現状、社会的コストを考えれば、日本ではピロリ菌除菌が絶対必要」

と断言する。

「超悪玉ピロリ菌」にむしばまれる胃がん大国ニッポン。発症メカニズムが明らかにされた今、社会全体で「胃がん予防」に取り組むべき時だろう。(読売ウイークリー2008年4月27日号より)
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ここまで専門の医師が提言は、ありがたい。無知よりか、予備知識を得た方が、対処する気構えが違うだろう。
掲載は、2008年が創立100年、財団法人癌研究会。