在外被爆者の支援をめぐる行政当局の姿勢を厳しく問う判決である。
国や自治体は地方自治法の時効(5年)を盾に、在外被爆者からの健康管理手当の支払い請求に応じてこなかった。その是非が争われた訴訟で、最高裁が行政側の主張を退ける判決を言い渡した。
在外被爆者への行政の支援策は、司法の判断を後追いするばかりだった。
国は当初、旧厚生省が1974年に出した局長通達(402号通達)に沿って「海外に暮らす被爆者は手当の支給を受けられない」としてきた。
ところが、最高裁が78年に「国内にいる限り手当を受けられる」との判断を示したことから、今度は局長通知を出して、「日本滞在中は援護を受けられるが、出国すれば権利を失う」と改めた。
さらに、大阪地裁と大阪高裁が2001年から02年にかけて「被爆者はどこにいても手当の受給権を失わない」との判断を示した。国は上告を断念し、03年3月には、402号通達自体を廃止して支給を開始した。だが、時効を理由に過去5年分しか支払わなかった。
今回、最高裁はまず、402号通達について「被爆者援護法などの解釈を誤る違法なものだ」とした。過去に地裁や高裁では例があるが、最高裁がこうした判断を示したのは初めてだ。
「時効」の主張については、「信義則に反して許されない」とした上で、行政側は「402号通達によって、在外被爆者の請求を積極的に妨げ、権利の行使を著しく困難にさせて時効にかからせた」と指摘した。
これまでのどの判決よりも、国や自治体の責任を厳しく問うものである。
時効適用の是非をめぐっては、過去の判決の見解が分かれていた。今回の訴訟でも、広島地裁は適用を認め、広島高裁は「信義則に反する」としていた。
司法の判断も分かれていたことを考えれば、行政側の対応を頭から批判することはできない。だが、最高裁の判決は4人の裁判官全員一致の見解だった。行政当局は重く受け止めるべきだろう。
今回の判決を受けて、厚生労働省は時効の適用をやめ、在外被爆者に未払い分を支払う方針だ。被爆者に対する「総合的な援護対策」を求めた被爆者援護法の趣旨を考えれば、当然の措置である。
厚労省によると、海外で暮らす被爆者のうち、「時効の壁」に阻まれて、一部でも手当の支給を受けられなかった人は数百人に上るという。
被爆者の平均年齢は74歳に達している。早急に対応しなければならない。(2007年2月7日読売新聞・社説)
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前代未聞の歴史の里塚、で考えるのではなく、放射線障害の生理的および心理的後遺症の観点から察するに、広島の慰霊碑にあるように、固い決意を表明したのであれば、その被害者に対する、国の責任は、最大限の最新医療と手厚い老後生活の保障、でもって報いるべきものでしょう。それは、国の内外を問わず、ひいては国際社会におけるわが国の地位を富ますのに有益以外のなにものでもありません。