新たな証拠がないのに、正反対の判決が出た。
日本歯科医師会(日歯)側から自民党旧橋本派への1億円ヤミ献金事件で、東京高裁は、1審で無罪だった村岡兼造・元官房長官を逆転有罪とした。
村岡被告は、旧橋本派の政治団体「平成研究会」(平成研)の収支報告書に1億円を記載せず提出した、として政治資金規正法違反(不記載)に問われた。
派閥の幹部会で、村岡被告が1億円の領収書を出さないことを決定した、と平成研の元会計責任者(有罪確定)が証言した。この証言の信用性が、1、2審の争点だった。
1審判決は、証言を「不自然で到底信用できない」と退けた。「橋本元首相に責任が及ぶのを阻止し、平成研への打撃を最小限に食い止めようとした」ものだとしていた。
高裁判決は、正反対に「自然で合理的」、「根幹部分で逮捕直後から一貫している」と、証言の信用性を認めた。
さらに、村岡被告は「会長代理という立場で、収支報告書への不記載を幹部会の総意として決定しており、果たした役割は大きい」と述べた。
1億円のヤミ献金があったことを認めたのは、1審と同じだ。
高裁判決によれば、政治資金収支報告書は、「国民による政治活動の監視及び批判のよりどころ」だ。政権党の主要派閥が1億円もの献金を収支報告書に記載しなかったことを、判決が「政治資金の流れについて国民に多大の疑惑を抱かせた」と指摘したのは当然だろう。
東京地検特捜部が、外からは実態が見えにくい派閥資金を捜査対象にしたのは初めてのことだ。
公判では、ヤミ献金のほかに、平成研が、現金で受け取ったパーティー収入1億数千万円を収支報告書に記載せず、裏金として参院選の候補者に配ったことなどが明らかになった。
今回の事件がきっかけとなり、政治資金規正法が改正された。制限がなかった政治団体間の献金額に年間5000万円の上限が設けられた。
だが、選挙に金がかかる、という実態は変わっていない。
「政治とカネ」を巡る国民の不信感は依然、根強い。自民党の政治資金団体「国民政治協会」が介在する迂回(うかい)献金などが示すように、議員個人や派閥への金の流れが見えにくいのは相変わらずだ。
捜査当局が違法行為の摘発にあたるのは当然だが、有権者の信頼を回復するため、政治の側も、政治資金の透明化に努めなければならない。(読売・社説)